♪母は来ました今日も来た この岸壁に 今日も来た 届かぬ願いと知りながら もしやもしやに もしやもしやに ひかされて 「又引き揚げ船が帰って来たに、今度もあの子は帰らない。この岸壁で待っているわしの姿が見えんのか・・・」 (岸壁の母)第二次世界大戦後のシベリア抑留からの引き揚げ船、まだかまだかと帰らぬ息子を待ち、引き揚げ港であった舞鶴港に来ては涙する「岸壁の母」の歌。
亡き父と母が満州開拓団員として満州とシベリアから引き揚げた話を聞いた子どもの頃に、この歌は耳にしていたが、舞鶴港の岸壁に立つ母の切ない歌だと知ったのは、後のことだった。
【展示室の入口:シベリア抑留写真】
ここに「舞鶴引揚記念館」があると言ってたのは、当時一歳で母親と開拓団村から引き揚げてきた長兄だった。
5月の渋滞するGW明けを待ち8日、9日の両日、すぐ上の兄とこの舞鶴の引き揚げ記念館を訪ねることにした。
名神高速道路を兄の車に同乗して昼頃には着いた。
展示は一時間ほどで見終えられるほどの規模と聞いてたが、シベリア抑留に関する展示もあり、父と母の足跡の一部でも分かればという思いだった。
【臨時招集令状:戦争末期は染料も不足し「赤紙」も赤くはない】
興味深い展示品も数々あった。「赤紙(臨時招集令状)」、抑留中の服装品や道具」、「援護局発行の証明書」などなどは、父と母の当時を思い起こす品々で、戦争の歴史の記念館はいくつもあるが、いっそう身近なものだった。
兄と展示を見ながら、数少ない母の残した言葉を思い出していたら、記念館の「語り部」の方から声をかけていただいた。
【大陸日本築け若人の義勇軍募集ポスター、辛くなる標語】
展示の品々の説明も初めて聞く話もあり、こういう説明はありがたい。新しく知り得たこともいくつかあった。
昭和21年末の母の引き揚げ船が着いたのは、ここではなく実は舞鶴西港だったと思われること。
引き揚げに使われた船は「V型」と言われる船舶だったこと。60万人余の引き揚げにはさまざまな船が必要だったという。
引き揚げ者は舞鶴市内で「引き揚げ証明」と食料券を受け取り数日滞在した。父母は出身地の信州へは京都経由して帰郷したと思われる。
当時の舞鶴市は爆撃の被害が比較的少なく、引き揚げ者への親切な対応を可能としたそうで、この舞鶴で幼児を抱えた母は安堵の思いだったのだと思う。
引き揚げ者の身元不明の遺留品など、現在も何万点も厚生労働省に残され保管されているというお話で、照会すれば何らかの手がかりがあるかも知れないと説明いただき、後日資料請求の手紙を出そうと思う。

【白樺日記:命がけで思いを綴ることの意味・・・】
「白樺日誌」という世界記憶遺産登録資料が展示されていた。
紙の代用で白樺の樹の皮に煤を水に溶かしたインクを空き缶の尖った先をペン代わりに、日々の生活や歌を綴ったものだった。
検閲や統制をくぐり抜けて持ち帰られたと言う。極限下でも人間は知恵と工夫で、自由な意思表現を残すことができるという、圧倒される存在感があった。平和であることの尊さを身に沁みて感じた。
そういえば昼飯は記念館内にあるカフェで、自分は「引き揚げうどん」兄は「海軍カレー」を食べた。とくに「これ!」ということもなかったが、こういう記念館でそれらしい名のついたものに、雰囲気だけは旅気分といえた。
語り部の方の名前はお聞きしなかったが、この方も母と子で引き揚げされたとおっしゃっていた。引き揚げの話は子らよりもそのお嫁さんに案外話している場合がありますよと。
戦争体験者が少なくなって、戦争を知らない世代がほとんどとなり、こうした話を聞く機会も減って、語り部の方のお話はとても貴重で感謝いっぱいだった。
記念館での見学を終え、兄との記念写真も撮り、川を挟んだ向こうにある「復元引揚桟橋」を見学に行く。
復元桟橋なので当時の桟橋は湾の奥にあったらしい。水深が浅く引き揚げ船は湾の途中まで、そこから小型船に乗り換え、懐かしい日本の地を踏むことになったようだ。
舞鶴港は昭和20年の第一船の入港から昭和33年の最終船まで、昭和25年以降は唯一の引き揚げ港として、60万人余の引き揚げ者を受け入れ、その内に私の両親とまだ幼かった長兄がお世話になったのである。
【復元引揚桟橋:たしか「こころ旅でもここを訪れていた】
桟橋から見る風景は穏やかそのものだった。その湾内に「引き揚げ船」が停留し、そこから小型船に乗り息子を抱いた母の帰還する安堵の眼差し、この桟橋に立つとそんな錯覚も不思議とは思えない光景なのである。
「舞鶴引揚記念館」を見学するという目的は終えることができた。厚生労働省への資料請求の方法も教えていただいた。短い時間だったが「語り部」の方のお話も伺えた。充実した旅だった。
今回は舞鶴まで来たのだから、ついでに日本三景の一つ「天橋立」まで足をのばし、のんびり一泊旅にする予定なのだ。 (つづく)
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